『教育学としての日本教育史概説』の詳細目次について、前回に引き続き、第3章と第4章を紹介します。
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第3章 国民教育の開始―1870~90年代
1.日本近代教育の出発点
(1)必要に応じた多様な教育の始まり
(2)明治政府の国民教育づくり
(3)「教育」と人材育成の葛藤
2.国民教育の制度化
(1)共通教育と義務教育を目指して
(2)普通教育の模索
(3)普通教育と人材育成
3.国民教育開始の影響―「小学生」の誕生
第4章 多様な子どもと学習への挑戦―1900~20年代
1.小学校教育の拡充
(1)義務教育4年制から6年制へ
(2)臣民教育と多様な子ども
2.近代化と学校
(1)立身出世主義と良妻賢母主義
(2)都市新中間層と新しい私立小学校
3.学校の社会的機能の変容
(1)学校外に広がる教育の役割
(2)初等後教育の広がり
(3)中等・高等教育の拡充と産業発展・治安維持
4.近代教育の拡充と変質
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一見してわかるように、第3・4章は明治・大正期の教育史です。ただし、明治45・大正元(1912)年で区分せず、1890年代と1900年代で区分しました。この2つの章を書くとき、1900年代をどうとらえるかで悩みました。結局、教育要求の多様化とそれへの対応という視点を軸にして時期区分しました。
1890年代までは国民国家の要求と人材育成の伝統との衝突が記述の軸になっています。1900年代以降は、就学率上昇や都市新中間層の形成、地域づくり(地方改良)、在村・勤労青年の存在、産業経済の発展、思想善導といった、文部省や教育関係者の要求に限らないように、児童生徒の拡大や社会変動、内務省・軍部の思惑にともなう多様な教育要求の出現とそれへの対応を軸に記述していきました。多様な要求としてほかにもあるかもしれませんが、今のところ私の目に留まった先行研究のうち、日本教育通史を叙述する上でどうしても触れておきたい要求はおおよそカバーしたつもりです。
本書は、第1章で「教育の内と外」という教育学的視点を設定しました。第3・4章は、この視点を生かして日本教育史を叙述しようとした試みとなります。また、このような明治・大正期の教育史を通して、「教育の内と外」という視点を読者に身に付けてもらいたいと思っております。大正新教育の捉え方も工夫しました。
ちなみに、1870年代前半の捉え方は、貝塚茂樹・広岡義之編『教育の歴史と思想』(ミネルヴァ教職専門シリーズ2、ミネルヴァ書房、2020年)の第8章「国民教育の始動―明治期の教育」(115~130頁)を書かせてもらったときに仕上げたものです。「学制」以前を無視しないという視点は、1870年代〜80年代初頭を通して理解するために必要なものだと考えています。特に、私がずっとこだわってきた府県会における「普通」・公私立論争を理解する上で欠かせない歴史的背景を見逃さないためには必要な視点だと思います。